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環境の変化により子どもの言語が変化するのは小2まで?!

 

こんにちは。まめちゃん(@mame_chang)です。韓国で子どもたちをバイリンガルに育てて始めて約10年が経ちました。

 

さて、国際結婚や海外在住の子どもたちは、家庭にもよると思いますが親の仕事や都合でよく移動するように思います。私は日本人の両親のもとで日本で生まれ育ちましたが、親の転勤などで遠方に引っ越したり、旅行などもそれほど頻繁には行かなかったので生まれ育った地域を出ることはあまりありませんでした。

 

一方、現在国際結婚をして海外在住、育児をしていると韓国と日本は他の国と比べて地理的に近いせいか、子連れで移動(一時帰国)する話もよく聞きます。理由は子供を日本の小学校に体験入学させるためであったり、ただ単に親が日本なの帰りたいだけであったり日本で用事があったりと様々です。

 

海外育児をしている親にとって、この一時帰国は言語の面からみるととても大切で、子どもの日本語が伸びることを期待します。そして、一時帰国の前と後を親が比較して

 

「日本語が伸びた」

「日本語が上手になった」

 

と感じることが多いのではないかと思います。しかしそれがいつまで続くのか、そして他の家の子ども達もそうなのかは周りの話を聞いて確認するのが主なやり方ではないかと思います。

 

そんな中、

 

「環境の急激な変化によって子どもの言語が変化するのは小2まで」

 

と言っている論文を読む機会がありました。

 

「論文」と聞くとなんだか難しそうですが、今回はこの論文についてできるだけわかりやすく内容をお伝えできたらと思います。





環境の変化により子どもの言語が変化するのは小2まで?!

それでは早速、どんな内容なのか簡単に目的ややり方などをお話しします。

 

★どんな目的なの?

この研究は次の3つを目的にして行われたそうです。

 

1.日本と韓国の国際結婚の家庭の日韓バイリンガル児が日本に一時期帰国した前と後では、言語がどう変化するのかが見たい!

2.一時帰国の前と後の言語の変化は年齢によって差があるのかな?

3.一定の年齢を過ぎると急激な言語の変化は起きないといわれているけど日本語と韓国語の場合はどうだろう?

 

 

★どんなやり方なの?

この研究には全部で5人の日韓バイリンガル児が協力してくれています。子ども達の年齢は、5人のうち2人が7歳、3人が9~10歳だそうです。

 

そして、日本語と韓国語の両方が書いてあるカードとチェックシートを準備して、カードに書かれている絵の名前を親が子どもに言って、子どもがそれに日本語また韓国語で答えるという方法をとったそうです。質問は、日本語の力を見たい時は日本語だけでやって、韓国語の力がみたい時は韓国語だけでやったそうです。

 

具体的には、親が頭を指しながら「これって日本語で何?」と聞いたり、子どもの左手をとって「これは左手だよね、じゃこの手は?」と「右手」という答えがでるかどうかを見る、と言った具合にです。そして子どもの年齢(7歳か、9~11歳か)によって、質問の内容を少しずつ変えたようです。

 

それから、これは一時帰国の前と後の変化が見たい研究なのでこのようなカードを使った子どもへの質問は

 

・日本への一時帰国直前

・韓国帰国直後

・韓国帰国一ヵ月後

・韓国帰国二ヵ月後

 

のように4回実施して変化を追ったそうです。

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★結果は何かな?

このような目的、やり方でどんな結果がでたのでしょうか。それは以下の通りです(7歳の子ども達の場合)。

 

・日本への一時帰国直前 → 日本語の間違いが多く、韓国語の間違いが少ない。

・韓国帰国直後 → 韓国語の間違いが多く、日本語の間違いが少ない。

・韓国帰国一ヵ月後 → 日本語の間違いが韓国語の間違いより少々多い。

・韓国帰国二ヵ月後 → 日本語の間違いと韓国語の間違いはだいたい同じぐらい。

 

また、9~11歳の子供達は、このカードを使った質問について、回を追うごとに正解する確率が増えていたとのことです。そして筆者によると、それは最初にカードを見て答えられなかったら、次に同じカードを見て質問された時には答えられるようにと子ども自身が答えを覚えたからだそうです。

 

 

★結果からわかること

そして結果から、筆者は次のように結論を書いています。

 

1.年齢によって言語を忘れていくのには差があり、その年齢は小学二年生だと考えられる。

2.過去の研究にあるように一定の年齢になると急激な言語の変化は起こらない。

 

そして、

 

3.小学校二年生までに日本語のインプットを与えつづければ、その後、言語の環境が大きく変わってもあまり変化は見られない。

4.小学校に入って韓国語で勉強が始まって韓国語が強くなり日本語がなかなか出てこなくなってもあきらめないで根気強く日本語も一緒に使っていくことが必要。

 

 

としています。では、これって、実際に海外で子どもをバイリンガルに育てている人にはどのように役立つのでしょうか。



バイリンガル育児に役立つ事は?

海外でバイリンガル育児をしている人にこの研究結果は、どのぐらい役に立つのでしょうか?

 

まず、この論文に書いてあるように「小学校二年生」までがカギで、それまでに日本語をたくさん聞かせる必要があるなら、そうしたらいいと思います。

 

また、我が家に当てはまめてみても上の子は小学校二年生までは家で日本語を話すことはもちろん、読み書きもやっていました。しかし三年生になると海外受講していた進研ゼミも、国語と算数に理科や社会が加わりどんどんわからない言葉や漢字が増えていき、子どもが負担に感じるようになったため無理に続けず子どもの興味の対象から日本語を続けるというふうに方向転換をしました。

 

そのため、さきほどの筆者の

 

4.小学校に入って韓国語で勉強が始まって韓国語が強くなり日本語がなかなか出てこなくなってもあきらめないで根気強く日本語も一緒に使っていくことが必要。

 

の「根気強く」は、子どもに無理強いするのではなくやり方を変えたりしながら続けていくというのが現実的かなと思いました。

 

それからこの研究内容とは直接関係ないのですが、この論文には過去のほかの人の研究から

 

言語を忘れてしまう人の前ぶれと原因について次の6つが書かれていました。

 

<前ぶれ>

1.流暢に話せなくなる。

2.話していても途中で止まったりして間ができる。

3.質問されたら「はい」などのできるだけ短い言葉で答えようとする。

4.同じ文や言葉ばかりを繰り返し使うようになる。

5.自分が言ったことを言い直しながら話す。

6.うまくしゃべれない時は話すことを避けようとする。

 

子どもが現地校に通っている我が家では、特に上の子に上の1.~6.のいくつかが見られることがあります。経験的にマズイなぁと思っていたのですが、このように論文になっていると本格的な対策を考えざるを得ないように思います。(その対策についてはまた機会を改めて書きます。)




次にその原因は次の5つとのことです。

<原因>

1.年齢

2.言語を忘れてしまう前の言語の能力がどのぐらいか

3.読み書きの力

4.動機

5.態度

 

原因のうち、3.~5.は実ははっきりわからない部分もあるようですが、私はこの5つの他にも「環境」というのも大きな原因ではないかと思います。



研究結果はどの家庭にも当てはまるの?

この研究は世界のあちこちで実践しているバイリンガル(トリリンガル、マルチリンガル)育児の家庭の中で、韓国在住のわずか6つの家庭を対象にしたものです。そのため、研究結果がどの家庭のどのバイリンガル児にも当てはまるとは限りません。

 

しかし、それでもこのブログで紹介しようと思ったのは参考になることは間違いないし、親が知っておいて損はないと思ったからです。また、このような研究結果や事例を親が知識として持っておいて、

 

「自分の家ならどうだろう?」

「うちの子なら?」

 

考える習慣が一番大切なのではないかと思います。



まとめ

今回は、日韓夫婦のお子さんたち6人が、日本への一時帰国の前と後で日本語と韓国語がどのように変化するのかな?という研究論文を読む機会があったため、その内容をできるだけ簡単にわかりやすくご紹介してみました。

 

今回のポイントは、次の4つです。

 

ポイント

1.年齢によって言語を忘れていくのには差があり、その年齢は小学二年生だと考えられる。

2.過去の研究にあるように一定の年齢になると急激な言語の変化は起こらない。

3.小学校二年生までに日本語のインプットを与えつづければ、その後、言語の環境が大きく変わってもあまり変化は見られない。

4.小学校に入って韓国語で勉強が始まって韓国語が強くなり日本語がなかなか出てこなくなってもあきらめないで根気強く日本語も一緒に使っていくことが必要。

 

ただ、親だけが根気強くがんばっても子どもにはプレッシャーとなり親は自爆、子どもは日本語が嫌になることもありますので「根気強く」とは、自分の家庭に合わせてやり方を変えたりしながら続けていくのがいいかなと思います。

 

また、子どもが言語を忘れてしまう前の前ぶれについても6つ書きましたが、うちの子にも当てはまる部分もあり経験上うすうす気づいたことがはっきりと論文に書かれているのを読むとため息をつかざるを得ません。

 

しかし、ここも「では、うちではどうしようかな......?」と我が家なりの方針を決めて無理なく続けていけたらいいなと思います。根気強く、今日も地道に頑張りましょう~。

 

・最後になりましたが、今回ご紹介した論文の情報です。↓

タイトル:『多言語環境にある子供の二言語併用の実態分析』(←※2020年7月7日現在リンク切れ)

筆者:房極哲・上野由香子

論文が載っている学会誌の名前:『日本近代學研究』第35輯

発行された年:2012年




    • この記事を書いた人

    まめちゃん

    韓国で2人の子供達をバイリンガルに育てています。大学院生の頃は第二言語習得を研究していました。日本語教師の経験が約20年。子供達のバイリンガル育児や国際結婚、バイリンガル育児について第二言語習得や日本語教師的な視点からブログを書いています。 時々韓国の義実家に関する泣き笑いネタもあります^^;

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